#02収録予定・テキストサンプル 「かわいそうなポプラの木」

・本文抜粋したものなので、雰囲気でお楽しみください。


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「てめぇそこの白髪! 黙って聞いてりゃ、誰がチンピラか!」

 いや、どう見てもチンピラだろ。

「ハッ、自覚ないんですかぁ? 本ッ当に残念な男ですね、顔だけはまともに産んでくれた親が可哀そうですよ!」

 それを鼻で嗤うお前も、かなり性格悪そうで残念だよ。

「てめーにだけは言われたかァねえな、史上最悪のクソガキが!」

 使者様の味方はしないけど、兄貴も、今考えると相当、クソガキだっただろ。


 お洒落なテラス席のカフェの目の前で、街路樹としては定番のポプラの木が、機嫌の悪いチンピラ二名様の八つ当たり攻撃で、今にも根から折れてしまいそうに揺れている。

 可哀そうに。ポプラの木って、成長が早いけど根があんまり大きく育たないから、強風とかには弱いらしいよ。知ってた?


 壮絶に眼つきの悪いチンピラ二名様が、リアルな罵詈雑言を吐き捨て合う、その周囲では今にも竜巻が起こりそうなほど、荒涼とした風が低く唸るように吹いている。


 実際、兄貴やアリアの魔道士としての実力を配慮すると、このチンピラ二名様にとって、竜巻程度の突風を片手で巻き起こすことなど、雑作もないことで。

 また、性格面を考慮しても、双方、周囲への気遣いなど欠片も感じられないわけで。

 平たく言えば、ここで戦り合えば、こんなチンケな店や公民館及び民家・街路樹なぞ、一瞬で塵になるかもしれない。


 カフェの中では、バイトの中で一番ガタイのいい男が、店長らしきおっさんに、お前ちょっとアレなんとかしてこいよ! 大丈夫、保険適用するから! と無茶振りされて半泣きになっているのが見える。

 ちなみに他のバイトと思しきウェイトレスやウェイターの中には、これ見よがしにさめざめと泣いている者もあった。


 無理もない、こんなの、どこの店のマニュアルにだって書いてないだろう。下手な職業チンピラより余程タチが悪い。ヤ○ザは殴り込みや嫌がらせはしてくるだろうけど、自然災害まで巻き起こす力なんて持ってないもの。

 勿論、さっきまで煩いくらいだったオープンカフェの客達は、一転して、水を打ったように静かである。誰ひとりとして、こちらに目を合わせてこない。そして、数十秒ごとに、確実に数が減っていっている。

 後日、この店が見事に潰れていたら、それは多分俺達のせいだ。





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 サイトが出来る前にブログにちょこっと上げていたので、サイトにも収めとくことにしました。
 
 2012.07.02.